雑記

マルチ商法は何が悪いのか

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新庄耕の2作目ニューカルマを読む

新庄耕という作家が、書いた2作目の作品です。新庄氏はデビュー作の”狭小住宅”が凄く有名のようですね。

前向きになれる本ではなく、泥沼にはまっていくような展開で没頭して読めるのですが、息苦しくなる描写のような気がします。

作風が高杉良に似ているようなところがあるように思います。高杉氏も結構、ブラック企業を取り上げているケースがあるのですが、細かな数字とか出さないけど、感情はよく描写するんですよね。消費者金融を題材にした欲望産業を読んだ時には、消費者金融のノウハウ的なことはほとんど出てこないものの、登場人物の苦悩や駆け引きが描写されることで、十分その世界を味わうことができた記憶があります。

新庄氏もニューカルマの中で、マルチ商法そのものについての説明は深堀しません。ですが、マルチ商法に足を踏み入れた者が味わう、辛酸と甘美と日常を描くことでマルチ商法について様々な印象を与えます。

この”ニューカルマ”では、マルチ商法がテーマとなっております。マルチ商法のことは、正式にはマルチ・レベル・マーケティングといわれてます。つまり、合法です。こういったビジネス形態があるということです。マルチ、という呼ぶのは蔑称的なニュアンスで言われますよね。否定的に捉えてない場合、マルチとは呼ばずにマルチ・レベル・マーケティングと呼ぶという使い分けがされています。

ニューカルマには、”タケシ”(新庄市の小説では登場人物の名前がテキトー)という絶対的な正しさを持った人物が出てきます。そのタケシから、主人公ユウキは「お前は騙されている」と熱く諭されます。

ですが、どのように騙されているのか、というのは文字で明確に説明するわけではなく、物語の展開で説明します。

ニューカルマの主人公ユウキは、大手の子会社に勤務しており、特に不自由な暮らしではないものの何か目的があって就職したわけでもなく惰性で日々働いているという感じ。そんなサラリーマン人生の中で、大学時代の同級生シュンから、マルチに勧誘されます。断り続けるも、あまりのしつこさに根負けし一度だけセミナーに顔を出し、その場では逃げるように出てきます。ですがその後、職場が傾きかけて、親しかった同僚が半リストラに遭い、残業代や賞与が出なくなったことでセミナーで多額の収入を得ている会員の話が頭をよぎり、自ら進んでマルチレベルマーケティングの会員となります・・・。

その後は、甘美と辛酸を味わい、一度は足を洗うのですが・・・。

ニューカルマでは、おそらく超基本的なことは端折られています。例えば、マルチレベルマーケティングの会員になるには、安くはない入会料を納めなければならないこと、会員はモノを売ることよりも、なぜ子会員を増やすことに力を入れているのか、この辺の説明はありません。

ですが、マルチ商法が良いのか悪いのかを判断するにはおそらく、ここら辺が核となるので少し掘り下げていきます。

ねずみ講は何で違法か。

ねずみ講という違法なビジネスがあります。これは、何か具体的な活動をするわけではないのですが、とにかく何らかの組織があり、仮にチューチュー集団としましょうか、初めは一人なのです。その一人が、色々な人に声をかけまくるのか、特定の人を言葉巧みに騙すのかは分からないですが、とにかく、「私の、チューチュー集団に1万円で入ってください。そして、あなたは他の誰かをこのチューチュー集団に入れてください。すると、あなたに紹介料を半分を還元します。そして、あなたが勧誘した会員の方が、また誰かを勧誘したら、その紹介料もあなたに一定割合還元されます。(以後繰り返し)」と言って、信者を作ります。

これが旨く逝ったとしましょう。

親玉は

  1. 一人目のカモ1から1万円ゲット。
  2. カモ1が別のカモ2人勧誘に成功。⇒ 5000円×2ゲット
  3. カモ2がカモ4と5、カモ3がカモ6と7 ⇒ カモ4・5・6・7の紹介料の3割ずづゲット。
  4. 以後繰り返し

これが繰り返される限り、紹介料が入ってくるのです。

しかし、人口は有限なため、いつかは終わりが来るのです。

たとえば、カモNo.120000000(1億2千万)の会員に「あなたは他の誰かをこのチューチュー・・・」と言ったとします。

ところが、1億2千万番目のカモには、もはや会員ではないカモは存在しないのです。

このように、いつかは破綻することが前提となって成立してしまうビジネスは無限連鎖防止法という法律により、違法となってしまいます。

誤解を恐れず言えば、本質的にねずみ講であるものは、すべて詐欺です。

1990年以降に生まれた方は知らないかもしれませんが、昔はチェーンメールというものがよく出回ってました。1週間以内に10人に転送しないと呪いにかかるとかいって、10人に転送するよう促すお遊びのようなものだったのですが、本当にありふれてて、誰も怪しさすら感じてませんでした。

ですが、これを言葉を変えて出回ったものがありまして・・・まぁ、詳細は総務省のサイトが分かりやすいかと思います。

とまぁ、このようなネズミ算式に増えていく原理を使ったビジネスは違法となるわけです。

マルチは違法ではないのか

少し疑問に思うのが、マルチ商法と呼ばれるものがなぜ違法ではないのか?

親会員とか子会員とか言ってる時点で大分、胡散臭い感じしますよね。

ただ、少なくともねずみ講と違うのは、会員になると会員しか扱えない商品を販売する権利を得ることが出来て、それを売ることで利益を得ることが出来るという点です。

つまり、会員は実際にモノを売っているわけです。

従って、ねずみ講の最後のカモのように、例え、新たな会員を勧誘する余地がないとしても、商品を販売することで利益を得ることは理屈の上では可能です。このように、実際にサプリメントなどのモノを売っているかどうかが、違法なビジネス形態であるかどうかの大きな分かれ目とされています。

さて、マルチはよく、人間関係をお金に換える仕組み、とか、友人が一人残らずいなくなる、と言われています。

一体、これはどういう意味なのでしょうか。

マルチビジネスに参入するタイミング

マルチビジネスでは、見落としてはいけないことがあります。それは、

モノを売るよりも、新たな会員を入会させることに皆エネルギーを費やしている、という点です。

ここが、単にモノを売って儲けることとは異質なビジネスであることを顕しています。

先ほど、会員は入会する時にモノを販売する権利を得ると述べました。その権利はもちろん、ただではなく、高額であることが多いのです。例えば、サプリメントを購入する権利が50万円だとします。この権利金は親の親の親の・・・その先の親まで分配されます。そして、サプリメントが売れた時の収益も、親の親の・・・その先の親まで分配されます。

つまり、自分が勧誘した会員が、更に会員を勧誘できると仮定すると、Σ的に収益が発生するわけです。

ニューカルマでも甘美として描かれるのですが、勧誘する能力に長けた者の勧誘に成功すると、その子会員が爆発的に孫会員を増やしていきます。そうすると、あっという間に、サラリーマンでは稼げない月収を手にすることが可能なのです。

これは、よくピラミッドで表されるのですが、自分がピラミッドの頂点となり、自分の子会員が会員を増やすごとに、高さを増し、底辺が広がっていく三角形になっていきます。

しかし、注意が必要なのです、このピラミッドはあくまで自分を中心として見たら頂点というだけで、マルチ組織の視点から眺めると、創始者しか頂点には存在しておらず、その傘下に無数のピラミッドが広がっているにすぎないのです。

裏を返せば、創始者に近い位置にいる、組織全体のピラミッドの頂点近くにいる会員は、大きく、そして、組織が崩壊する時まで儲け続けることが出来るわけです。つまり、早く加入した者ほど、より長く大きく儲けることが出来るのです。

さて、もしあなたが、友人を誘うとき、このピラミッドのどの辺りの位置だと声をかけることが出来ますか?




実はタイミングの問題ではない

では、頂点近くで友人を勧誘できるとしましょう。

本当にそれは美味しい話でしょうか?

子会員を眺め続けると、段々と自分から遠ざかる会員を見て、どんな気分になるでしょうか。

地平線付近にいるような新規加入者を見て、どう思うのでしょうか。

カモが来た(しめしめ)、と思うのか、稼ぐ余地がない悲惨な状況をもう見てられなくなるのか、どちらかしかありません。

どちらにしても、正気ではなくなっているような気がします。

著しく公平さを欠いたビジネスの仕組みがマルチ商法なのです。自分が、そして、自分の大切な友人が、その連鎖に巻き込まれていくのを受け入れることが出来ますか?

どうやってマルチ商法であることを見抜くか

おそらく次の2点を満たせばマルチで間違いないかと思います。

  • 入会時に権利金などの費用が発生する
  • 販売する商品を定期的に購入しなければいけない。

おそらく、この2つの条件を提示された時点で、それはマルチ商法だと思われます。

もし、大事な友人から勧誘されたら、いきなり軽蔑するのは避けても良いかもしれません。

というのが、友人がマルチ商法の不公平な仕組みにまだ気づいていない可能性があるからです。

そのため、そこをまずは確認しましょう。

もし、そこを説明することで納得するのであれば、あなたを誘うことはできないはずです。

逆に、承知の上であなたを誘ったのであれば、もはやあなたは友人ではなくカモになっていた、と思わざるを得ないでしょう。

マルチ商法は組織的には優れているものの個人レベルでは厳しい

マルチビジネスが道徳的なものを抜きにして稼ぐ手段として有力であるかどうかを考えてみます。

ネットワーク型ビジネスというのは、成功するための企業戦略としては取り得るものです。

商品やサービスの販売量が大きくなると、それと同時に商品やサービスの価値も増大していくとするならば、それは間違いなくネットワーク型ビジネスと呼ばれる企業戦略です。

例えば、電話機がそうなのですが、電話の利用者が一人だと電話機の価値というのは皆無なのですが、これが、100人、1000人と所有する人が増えていくと、電話機の価値も増大していくのは明白です。

このように、販売量が拡大し、会員となる人が増大することで商品やサービスの価値を高め得るものであるならば、マルチ商法と言えど成功する可能性はあるかもしれません。

ですが、マルチ商法には、ノルマが課せられて常にそれを達成し続けることでしか会員の利益は約束されません。

一体何が捻じれているのか。それは言うまでもなく、ピラミッド頂点付近の親会員が絶えず、利益を搾取し続けるからです。

どんなに、その商品を広めようとしても、いや広めつくしたとしても、遠くにいる親会員が利益を搾取し続ける限り、いくら満足な収入を得ることが出来たとしても必ずその先に泥沼を辿ります。

つまりマルチ商法とは?

針の先の小さな点に過ぎない子会員が、元を手繰り寄せていくと、必ず創始者に行き当たるはずです。諸悪の根源と言っても良いでしょう。

その創始者には、良い商品やサービスを世の中に広めようという信念はありません。なぜなら、本当に良い商品やサービスであるなら、会員だけに買わせるのではなく、自分で取引先を開拓するからです。わざわざ、マルチ商法の仕組みを取るということは、結局は人を騙し、自分だけがノルマから逃れ、収益を得続けることが目的なのです。

私が言いたいのは、最悪稼ぐ手段としてマルチを始める、と言ってもピラミッドの頂点以外から始めても、いつかは墜落するということです。

仮に創始者の立場としてマルチ商法を始めるのであれば、稼ぐ手段としては良いのかもしれません。ですが、人を騙さず稼ぎ続けれるほどの商品開発力だったり営業力があるのであれば、もっと良い方法があるでしょう。

なぜマルチ商法なのか?

それは、人を騙さないと自分の商品が売れないから。

ただ、それだけです。

 



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