記事の概要
- 偏差値について
- 何を学べるのか
- 水産社会学科
- 就職先について
- 進学する価値はあるか
卒業後、魚水会という会報が年一で届くのですが、そこにも、約7割の入学生が明確な動機がないまま水産学部に入学しているというアンケート結果が毎年のように出されています。
そのため、鹿児島大学の水産学部というのは、地元では国立大学のブランドが欲しいだけの人が行く所だという認識を持つ人もいます。
なので、国立大学のブランドといっても水産学部に他学部と同等の印象を持たない人も存在しますので、後々後悔してしまう場合もあります。
自分は入学して割とすぐに水産学部を選ぶべきではなかったと後悔してました(何かダサいから。バイト先で他学部の学生がいると変にコンプレックスを感じてました)。ちなみに、自分みたいに感じてる人結構います。
ですが、人生は長期戦です。別に水産学部を卒業しても、全く関係のない仕事をしても良いのですが、魚の行動学であったり、水産物の流通、漁法や、船舶など何かしらの領域である程度専門的な知識は身に付けておくべきです。例え、銀行員になろうが、不動産の営業マンになろうが、です。
水産学部に進んで、何を勉強していたかくらいは言えた方が良いです。単純な話ですが、魚の名前を100匹いえるとか、魚の行動を研究し釣りを極めるとか、そんなのでも良いです。
偏差値について
2019年時点で国立大学の水産学部は、3つあります。
北海道大学、長崎大学、鹿児島大学です。以前は東京水産大学(現東京海洋大学)という北大にも劣らないハイレベルな大学もありました。
学生であれば、ご存じでしょうが、この中で言えば、北大が最も難易度が高いです。偏差値は60程度必要になってきます。偏差値が60があれば、大半の大学・学部を狙える位置にあります。なので、北大水産学部に進学するということはしっかりとした動機があることでしょう。
それに対して、長崎大学、鹿児島大学はほぼ同程度(やや長大が上)で偏差値も50程度です。
国公立大学で偏差値50というとレベル的には下位に位置するといって良いと思います。つまり入りやすいです。
自分は鹿児島大学の水産学部出身ですが、初めから水産学部に狙いを定めている受験生はいないように思いました。高校で模試を受ける際に志望大学・学部を書くのですが、自分は1度も水産学部を書いたことがありません。いつも、農学部か環境系の学部を書いてました。
ちなみに、工学部も偏差値的には同程度なのですが、数学が重視されてる(数Ⅲ・Cが必須である)学部ですので数学が得意でなければ、難易度的には工学部が上かなという気もします。
何を学べるのか
2006年入学した当時は、1年目は共通の講義を受け、2年になると学科を選択することになります。大きく3つの分野で構成されてました。
1つ目は、水産資源学科
2つ目は、水産環境学科
3つ目は、水産社会学科
水産資源学科というのは、いわゆる生物学的な学科と言われてました。魚を解剖したり、海に出て海底の生物を泥ごと採取して調べたりという感じの事をやってました。必須の授業も、食品衛生学や藻類額、水産資源生物学など学生には一番、研究感が持てる学科だと思います。そして、一番人気があるので、学生皆ここへの進学を目指します。必ず定員オーバーし成績順で選ばれるので、大学1年の成績は重要だと言われてました。
水産環境学科というのは、いわゆる物理系の学科と言われてました。これについては、申し訳ないですが良くわかりません。自分は物理系がとにかく苦手で科目をほぼ選択してませんでした。
ただ、内容的には最も高度なことをやっている気がします。特徴としては航海士の受験資格が取得できます。なので、航海士を目指す人はここに行くしかありません。自分の知り合いは航海士になってました。
ちなみに、ここは一番人気がない学科でした。
水産社会学科というのは、いわゆる経済学的な学科と言われてました。定員が20人程度と少なく、入学試験は理系だったのに、ここを選ぶと一気に理系感はなくなります。
水産関係の文化(魚食文化)や水産物の流通(海で水揚げされた魚はどうやって店先に並ぶのか)、漁業関係者の経営の特徴といったことを勉強します。後は、ごく基本的な経済学、経営学の知識を学びます。面白い学科ではあるのですが、最も水産学部としての特色が薄い人間になります。
自分が選んだのはこの学科でしたので、社会学科については、もう少し掘り下げます。
水産社会学科
この学科の良さというのは、学生ではあまりピンとこないかもしれません。
なぜなら、働いたことがないからです。この学科は、他の学科に比べて、アカデミックな色合いが薄くビジネス的な色合いが強いです。例えば、道の駅の成功事例とその成功の背景みたいなのを講義で紐解いていきます。講義の中で、卸市場でしか手に入らないような鮮度の良い魚を販売することで、一般的なスーパーと差別化を図っているという説明があったとします。こういうのはかみ砕いて話されると、聞いていて面白くはあるのですが、ではこれをどう、自分なりに検証したり、実感していくかといえば、学生の身分としては手段がありません。アルバイトでやらせてもらうくらいしかありませn。
つまり、社会人を経験していれば、すごく勉強になる学科だと思うのですが、学生の間では、ただ面白いだけで深い理解を得るのは困難だと思います。
この学科の特徴は、今、水産業や漁業が衰退の一途を辿っている途中であることをこれでもかと刷り込ませてくることです(だからこそ、どうやって希望を見つけるか、それをどんな行動を起こせば現実に出来るかが重要)。
ちなみに自分は2006年度入学でしたが、この2006年~2010年あたりで、水産業界の課題と言えば、
・漁家経営の低所得
・後継者不足と高齢化
・漁業への参入障壁の高さ(初期投資が高すぎる。イメージが悪すぎるため若者が参入しない)
・中国の消費拡大による買い負け(輸入したくても出来ない)
・魚食文化の衰退(魚を家でさばいて食べない)
などといったことが課題とされていました。
現状の課題さえ大まかに捉えることが出来ているならば、あとは、そこに儲ける余地があるのかないのかを自分で突き詰めていくだけです。ただ、突き詰めていく作業は社会人になってからということになるでしょう。
本当に、水産業界で生き抜きたいと考えるのだとしたら、こういった課題にチャレンジすることは面白いと思います。公務員という立場で課題に取り組むことも良いかもしれませんが、当事者となってこれらの課題を克服できれば、楽しいでしょうね。漁家経営の低所得という難問にチャレンジするのも良いでしょう。ただし、この場合は、同じく漁業への参入障壁の高さも克服しないとそもそもチャレンジすらできません。
自分が当時、学んだ課題はどれとして、今なお解決されていないでしょう。
これらの課題を解決するのは、水産業界に身を置く、水産学部生なのかなぁと思ったりもします。自分も、養殖業にはチャレンジしたいと思う時もあります。綿密に計画を立てて、銀行から借金をして最低限の船や種苗、生簀を用意して、大きく育った何らかの価値ある魚(鹿児島の環境なら、やはりブリか。)を自分の手で売り捌く、ということはシンプルなだけにできるような気がしてくるものです。どうやって、販路を開拓するか、ブランド化など、難問ばかりですが。ただ、世の中には美味い魚を欲している人がたくさんいるということは、事実です。
ITに強ければ、売りたい人と買いたい人をマッチングするアプリなんかを作って普及できそうですけどね。
他にも、漁業を担う地域、いわゆる漁村は、高齢化に歯止めがかからず、年金受給者が漁業を担っている状態で、このままでは技術を継承するものが現れず漁業を技術的に出来る人がいなくなる、と危惧されていると習いました。そして、若者が漁業に参入しようとしても、船や網などの初期投資が高額なため、参入障壁が高いことも問題であるとも習いました。
おすすめの講義
そうそう、まだいるか分からないですけど、佐野先生という教授がいて、この人の頭のキレはヤバい。さすが元官僚。キレるにもほどがあります。
で、文章を書かせられる講義があるのですが、これは絶対に受講した方が良い。何なら、鹿児島大学の全学生が受けても良いと思う。それくらい、受講したら一皮むけます。
講義の内容は、2千字位の記事があって、それを400字に要約しなさいパターンと、何らかのグラフや、文章が与えられて、これから読み取れることを400字以内で書きなさいというパターンの2つがあります。その講義では、30分が前回の解説で、残り60分が文章作成というシンプルな構成ですが、先生の解説がえぐいです。この解説を聞くとマジで文章を要約する力が覚醒します。
官僚ってこんなに文章を読み取るのが上手いのかと思いました。そして、どうすれば、もっとスマートな文章が書けるかを物凄い的確に衝いてきます。
とにかく、読み取れることを書けに関しては、自分の妄想を書くなと言われます。書いてある事実だけを書けと言われます。
詳しくは、ぜひ佐野先生の講義(肝心な講義名忘れたけど)を受講して下さい。
長くなりましたが、社会学科の講義について紹介でした。
就職先について
先に書いておくべきこととして、水産学部に進んでしまったから就職先がなかった、ということはないと思います。
就活時期までに、簿記やIT系の資格などの資格を取得しておけば会社を選ぶ幅が広がるでしょう。
水産学部の最も優良な就職先は、今の時点では県庁職員(水産職)、食品衛生監視員(国家2種相当と言われる)になると思います。
この2つは狭き門なので現役合格はめちゃくちゃ難しいです。しかし、民間企業と違って29歳までは新卒枠で受験可能ですので、この計8回のチャンスを計画的に使ってチャレンジしてください。周りの受験生は、普通に働いている人達です。現役で不合格でも絶対焦らないでください。
それよりも、落ちたならそれを機に社会人(民間)としての経験も前向きに捉え糧としてください。そこで何かしら経験できますので、自分の考えが逞しくなりますよ。そのうえで、公務員試験に再チャレンジも全然アリです。職歴は大事です。
さて、公務員以外はというと、まず食品関連です。大御所ではマルハニチロ、ニッスイ、ヨコレイがあるでしょう。そして、水産学部だからと言って何も、水産系の食品を選ぶ必要性は全くありません。畜産系の食品でも需要あります。伊藤ハムや山崎製パンといった一流企業に就職した同級生もいました。
これ以外にも、警察官や消防士などの公務員、外食産業、流通業界(小売業や卸など)金融関係、公的団体など他分野に渡って就職していきます。専門性とは関連がないのですが、むしろ大半がこういう就職先を選んでます。
大学時代、水産経済学分野の佐野教授が講義中に話していたのですが、水産学部生は業界はどこであれ、営業職として働くことがほとんどだ、と言っていました。また、水産学部生は企業からしたら希少性がある学生なので、10人採用枠があるとしたら、1人は水産学部生を入れようかという心理が働きやすいということもメリットであるとしていました。このため、意外に良い企業に採用されやすい傾向があるという分析をされていました。
水産学部だから就職しにくい業界というのは、今の時代ありません。むしろ、水産学部生なのだから水産業界や食品業界を狙うべきと考えることはおろかです。
極端なことを言えば、ソフトウェアを作る会社でも就職可能です。プログラミングスキルを習得するのはメチャクチャ苦戦するでしょうし、下手したら向いてないと思い込んで会社を辞めてしまうかもしれません。ですが、1年毎日苦しめば、プログラミングは出来るようになるでしょう。そこからデータベースやネットワークの知識も加えていけばシステム開発も出来るでしょう。
ちなみに、私は最終的に水産学とは全く関係ない公的団体に就職しました。安定した、良い職場です(今はですけどね)。ボーナスも退職金もちゃんとしてます。この辺の緩い感じの就職アドバイスについては、別記事がありますので、興味があれば読んでみてください。ちなみに、公的団体や準公務員的な職場はハローワークに掲載されるのでハローワークをチェックするのも良いと思います。ハローワークの求人票の良い所は昇給率まで掲載されている所です。
私は、国立大の卒業生が中小企業に就職していくことは今後スタンダートになっていくと思っている(副業が解禁されれば年収が普通でも休日や残業がない会社の価値が爆上がりするから。)のですが、新卒で採用されることが一番就職しやすいであろう大手企業を狙うのも学生でしかできない職探しだと思って積極的にチャレンジしてみて良いかもしれませんね。
進学する価値はあるか
就職先として他学部に劣るわけではありませんので、他学部と比べて進学価値が低いとは思いません。
ただ、卒業後のキャリアが描きにくいのも事実でしょう。魚類や海藻類、養殖技術、漁法、船舶工学など、これを学んで、これを活かしたキャリアを思い描くのは難しいかもしれません。
例えば、養殖を専門に勉強したとして卒業後どうしたいか、と問われても返事に困るかもしれません。ですが、取るべき道はそんなにありません。
- 全く関係のない分野に身を置く
- 自分で養殖を始める
- 養殖をする人と何かしらで関わっていく
水産学部に進学した価値があるかどうかは、2か3を選ぶ価値があるかどうかという事だと思います。1というのは水産学部という括りではなく、そもそも大学に進学する価値の話でしょうね。
2というのは、かなり勇気がいることかもしれません。誰かに雇われて給料をもらうわけではないし、貯金もない状態では生活ができるか不安になるでしょう。よほど、在学中に稼げるという確信が持てない限りは、銀行を含め、周囲の同意を得るのが難しいでしょう。
現実的には3を選ぶ価値があるかどうかでしょうね。これは、本当に幅が広いでしょう。先ほど就職先にも出てきましたが、食品関係の会社であれば、魚を使った商品を開発したい、という考えはあります。白身魚のフライを使ったパンや弁当なんてものは、国民が好きな食べ物ですからね。では、そのフライにどんな魚が適しているか、他社より美味しいものを作るのなら、どこの魚を選ぶべきか、といったことを探していかなければいけません。しかも、今度はそれが大ヒットすれば、どうやって安定的に供給してもらえるかという課題もあります。その時に、大学で学んだことを活かしつつ生産者と連携していく人材が必要なのです。別に、一人でそういったことを背負うのではなく、チームで進めていくのでしょうが、水産学に通じた人材がチームの一人に欲しいことは確かでしょう。
他にも、缶詰に適した魚や、その調理法は何か。これが的確でなければ、美味しいものはできません。美味しくなければ、安くても売れない時代ですから何の素養もない人材よりかは、やはり水産学に通じてる方が良い。
銀行員になるとしても、漁業関係者に融資するべきかどうかの案件くらいあるでしょうし、水産関係の会社に融資したり、経営改善を指導していくこともあるでしょう。
とにかく、何かしらの形で水産学が欲しい場面は散らばっています。ですから、しっかり、勉強して専門性を身に付けておくことが重要になります。
言えることは、水産業界は将来性の面では他業界と比較して悪いわけではありません。水産白書にも出てますが、水産業界の市場は大体2兆円で安定しています。
外食産業や小売業は入っていない数字です。生産や加工の段階での市場になります。小さいながらも水産物の需要は一定してあるということです。魚食文化はなくならい。寿司屋はなくならないし、魚料理は料亭やレストランで提供され続けるし、スーパーでもたまには刺身も買うし、人間は絶対に水産物をいくらか消費しているのです。農業がなくならないように、我々が水産物を消費し続ける限り、水産業界は存在し続けるでしょう。
なお、水産学部に進学したら、水産学だけを勉強していくのではなく、IT系の勉強もした方が良いと思います。ITを利用しない仕事はないと思うので、プログラミング等のスキルは身に付けておくべきだと思います。
研究職にしろ、事務職、営業職どんな仕事でもパソコンをある程度使いこなせることは、ホントに仕事で優利です。
安心してほしいのですが、仮に水産学部に進んでも、無味乾燥な学生生活にはなり得ません。ですが、もし、当時の自分と同じように入学したことを後悔してしまっているなら、入学した理由の後付けが出来るように頑張る(例:カッター部に入る、釣具屋でバイト三昧、魚を研究しまくる・・・など如何にも海が好きだから水産学に入ったんだ思わせる。)か、違う道が描けるなら一旦辞めて、違う学部に進んだ方が良いです。出来れば前者が良いと思うのですが、後者を選ぶとなると、薬剤師や、医師となるでしょうね。逆にそれ以外だと周りと数年の時間的遅れを取ってまで選ぶ価値はないし、仮に工学部に進んだとしてそこで後悔してしまったら、今度こそ後に引けなくなると思います。
入っちゃった人、安心してください。頑張れば後悔はしませんし、後々味がある学部だったと思えます。そして、いつか、業界を変えてやりましょう!!